TEL : 047-411-6926 お問い合わせ

特別寄稿

Contribution

日本の植林文化

世界に、いわゆる古代文明と称される文明を築いた民族はたくさんあります。
エジプト、メドポタミア、チグリス・ユーフラテス、黄河など、
いずれも4000年の歴史を持つ文明です。
ところが世界の古代文明の地は、いまではほぼそのすべてが砂漠化しています。
それらの土地は、もともと砂漠だったわけではありません。
人々がそこに住み、文明を切り拓いた当時は、そのあたりは豊富な緑があり、
自然の恵みがたくさんあったところでした。
森があり、その森が水を育み、食料となる小動物を養ってくれていました。
だからこそ、人が住めたのです。

ところが人は火を使います。
そのために木を燃やします。
その木は、伐採して得たものです。
燃やすのは一瞬です。
けれど育つのには、木は何十年も何百年もかかります。

人が住む。木を燃やす。
結果として、世界の古代文明の地は、木のない砂漠となり、
人の住めない土地となり、人の住めない廃墟となって行きました。
ところが日本では、およそ3万年前という途方もない昔に、
世界最古の磨製石器が見つかっている、つまりそれだけ古い時代から人が住み、
暮らしていたにもかかわらず、日本はいまでも緑の国です。

なみにこの磨製石器ですが、木の伐採用にも使われていました。
三内丸山遺跡の巨大な六本柱跡は、ご存知の方も多いかと思います。
三内丸山遺跡は、今から約5500年前~4000年前の縄文時代の集落跡ですから、
もちろん鉄器などありません。
そんな鉄器がない時代に、何を使って木を伐り倒していたかというと、
実はその答えが磨製石器なのです。

木の根元を火で炙って焦がす。
焦げたところを、石器で削る。
また焦がす。
その繰り返し作業で、なんと巨大な木の伐採をしていたのです。

そうしてはるか太古の昔から蓄積された技術は、あの世界遺産になっている法隆寺五重塔の建築にも活かされています。
法隆寺五重塔の時代には、もちろん鉄器が普及していましたが、
その時代に使われた鉄製の大工道具はヤリカンナと呼ばれるもので、その形状は3万年前の磨製石器そっくりです。
つまり3万年前の技術が、工夫改善されながら伝承されてきたのが日本の建築だということです。

五重塔のような塔(ソトゥーバ)は、インドから支那、朝鮮にもあります。
けれどそれらはすべて、単に一階から5階まで各層ごとに「箱を積み重ねた」だけの構造です。
木造軸組で、耐震耐火構造を持つ塔建築は、日本独自のものです。

火を使うという意味では、日本で発見されている土器は、1万6500年前のもので、
これまた世界最古です。
土器というのは、火を使わなければつくれません。
そして土器を制作するためには、村落内で、食料確保と料理、土器作りが、
それぞれ社会的分業になっていなければなりません。
そうでなければ、土器をつくっている人は、飢えて死んでしまうからです。

つまり1万6500年前の土器は、その頃に日本では、火を使い、
社会的分業が行われ、集落内で社会的分業を営なまれていたという証拠になるわけです。
そして村落に社会的分業が成立していたということは、
そこに言語があったということの証明でもあります。

世界の古代文明の4000年の歴史どころか、1万6500年前、3万年前という途方もない太古の昔から、
日本は文明を開花させていながら、それでも日本は、森を失わず、緑を失わないできました。
いまでも日本は国土の7割が森林です。
どこも砂漠化していません。

これができたのは、日本人が太古の昔からずっと「自然との共生」を図ってきたからです。
屋敷を造るためには木を伐らなければならないなら、それと同じだけの木を育てる。
次の木が育つまでの間、その屋敷を大切に使う。
木が育つのに200年かかるなら、人の世は、だいたい20年でひとつの世代が交替するわけですから、
10世代先の子孫まで、ちゃんと住めるように家を造る。

爺さんの世代、親父の世代、自分の世代、子の代、孫の代、曾孫(ひまご)の代、
玄孫(やしゃご)の代、長生きをすれば、ここまでは自分と直接関係を持つことができます。
でも、それで爺さんの代から数えて7世代です。

10世代となると、たぶん自分は絶対に会うことのできないはるか未来の子孫です。
そんな子孫たちのために、裏庭に木を植え、育てる。
日本人はそうやって自然との共生を図り、狭い日本の資源を大切に育んできたのです。

以前、何かの折りに、「日本の森林は地味が肥えているいるから、木を伐採してもすぐに木が育つ」
とおっしゃった学者さんがいました。
違います。
森の木は、伐採すれば、禿げ山となり、禿げた斜面は、
大雨が降れば表面の栄養のある土が全部流されてしまいます。
そうなったら、地味が痩せ、もう木は生えれません。そうなった山が、
自然放置の状態でもとの原生林に戻るためには、約5千年という途方もない期間を要するのです。

木を伐採したら、そこに木を植え、大切育てる。
木を、ただ使うだけでなく、その木に感謝し、再び一緒に生活できるようにしていく。
自分の世代だけではなくて、子の代、孫の代、ずっとずっと先の子孫の世代のことまでを、ちゃんと考えて生きる。
それが日本が太古の文明を持ちながら、いまだに森を絶やさず保持できている理由です。

昔の古民家は、なるほど大きな古い家です。
けれど、そういう「共生」のもとに考案され建てられてきたものなのです。